トップページ »  『胃がんと大腸がんの、おはなし』①

『胃がんと大腸がんの、おはなし』①

2017-11-13 19:34:20

『胃がんと大腸がんの、おはなし』①

1.胃がん

ピロリ菌の検査と除菌
・胃がんの主な原因はピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)です。
・ピロリ菌感染者の約8%が、75歳までにがんを発症すると推定されています。
・ピロリ菌に感染するのは免疫力の弱い12歳ころまで。
・ピロリ菌の感染経路
 不衛生な環境(下水道が整備されていなかった時代に幼少期を過ごした世代。今の60歳以上の世代。)
 唾液・嘔吐による感染(父母や祖父母から主に家庭内で感染していると考えられる)

口から感染したピロリ菌は、胃の粘膜をおおっている粘液の中に住み着きます。胃の粘膜は胃酸でおおわれているが、ピロリ菌が胃のなかに入ると、ピロリ菌自身がアンモニアというアルカリ性の物質をつくり、表面に膜をつくって胃酸から自分自身を守って、強い胃酸のなかでも生存でき胃粘膜に感染します。ピロリ菌が胃に長く住み着くと、その毒素により粘膜が壊されて炎症が起こります。この状態がピロリ感染胃炎です。この胃炎が続くと炎症によって粘膜細胞の遺伝子が傷つくことにより、がん細胞ができやすくなるため胃がんを発生しやすくなります。日本人のピロリ菌感染率は年齢が高いほど感染率が高く、年齢が低いほど感染率は低いです。

胃がんを新たに発症する人の数は1年でおよそ13万人(男性で1位、女性で3位)、胃がんにより亡くなる人の数は1年間でおよそ5万人です。
早期の胃がんはほとんど症状がないのが特徴であるので気が付きにく、
進行した胃がんは、胃粘膜からの出血が起こるので胃痛、吐血、血便(黒色便)、貧血等が起こる場合があります。食欲が大きく落ちたり、体重が減ってくることもあるがこのような症状があると、かなり進行した胃がんのことが多いです。

ピロリ菌に感染している期間が長いほど胃がんになりやすく、 12歳を超えてからピロリ菌に感染することは少ないです。
できれば中学生以上全員にピロリ菌の検査、治療を受けることが望ましい(もしピロリ菌に感染している場合、治療は早ければ早いほど良いため)です。

ピロリ菌感染を調べる検査
・尿素呼気試験 ・便中抗原検査 
・*抗体検査(採血や採尿)
*ピロリ菌の抗体が10U/ml未満は陰性とされていますが最近の報告では、抗体価が3U/ml~10U/mlの人の約20%がピロリ菌感染者、あるいは過去にピロリ除菌治療を受けた人が含まれていることがわかってきました。抗体価が3U/ml未満の人は胃がんになる可能性は極めて低いのですが、抗体価が3U/ml~10U/mlの人は、他のピロリ菌検査、例えば尿素呼気試験などで正確なピロリ菌感染の有無を診断することと、胃粘膜萎縮の程度も内視鏡検査にてきっちり確認することが、正確な胃がんリスク診断には大変重要になります。
感染が判明した場合、内視鏡検査を行い胃炎や胃がんなどが起きていないか胃の粘膜の状態を直接観察します。
ただし、胃の症状がなく自主的にピロリ菌検査を受ける場合には保険は適用されません。ピロリ菌検査費用の目安は、全額負担で3~5千円程度です。
(ピロリ菌の検査は、内科や消化器内科で可能です。内視鏡検査をして胃炎が確認された場合、ピロリ菌検査は保険で行うことができます。)ピロリ菌感染がわかれば、内視鏡検査を行ったうえで、保険適応で除菌治療を始めます。人間ドッグなど医療機関で感染が判明した場合、その結果をもって医療機関で除菌治療を保険で行います。

ピロリ菌の除菌は飲み薬で行います。2種類の抗菌薬(アモキシシリン+クラリスロマイシン)と抗菌薬が効かなくなるのを防ぐために、胃酸の分泌を抑える薬(カリウム拮抗型胃酸分泌抑制薬かプロトンポンプ阻害薬)の3種類の薬を1日2回7日間飲み続けます。これが一次除菌で、治療終了から1~2か月後に尿素呼気試験などを行い除菌に成功したか判定します。その結果除菌しきれていない場合は、二次除菌を行います。クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変え、再び3つの薬を7日間飲み続けます。そして再び1~2か月後に判定を行います。
除菌の成功率は以前プロトンポンプ阻害薬を使用していた場合は7割くらいでしたが、2015年からカリウム拮抗型胃酸分泌抑制薬を使用することにより除菌率が上がり今のところは9割くらいの方で一次除菌が成功するといわれています。一次除菌が失敗した場合は二次除菌を行いますが、二次除菌の成功率も90数%あります。一次・二次除菌治療を合わせると理論的におよそ99%の方で成功すると考えられています。

除菌治療による副作用
アモキシシリンによる下痢、クラリスロマイシンによる味覚異常・口内炎など副作用自体は強いものでないので、1週間ほとんどの方が薬を飲みきれます。
かなり稀ではあるが、出血を伴う下痢が起こったら、内服薬を中止してすぐに受診してください。

・ピロリ菌除菌で胃がんのリスクは下がります。しかし胃の粘膜が萎縮している人は胃がんのリスクは続くので、除菌後も定期的に胃の検査を受けてください。
・ピロリ菌により胃粘膜の萎縮が進みすぎると、やがてピロリ菌が住めなくなる。➡もっとも胃がんのリスクが高い方です。
・50歳以上の人はピロリ菌感染の有無に関わらず一度は胃の内視鏡検査を受けてください。

 

胃がんの手術

胃がんの進行
第1段階:はじめ、がんは胃のなかにとどまっている。
第2段階:胃の周囲にあるリンパ節にがんが転移(リンパ節転移)
第3段階:さらに進行すると腹膜や肝臓など胃から離れた臓器やその周囲のリンパ節にも、がんが転移します(肝転移・腹膜転移)

がんの段階によって治療法が変わります
第1段階:転移の可能性なし→内視鏡治療
     転移の可能性否定できない場合→手術(胃を部分的あるいは全て切除して周囲のリンパ節を切除)
第2段階→手術(胃と周囲のリンパ節を切除)
第3段階→抗がん剤(手術でがんを全て取ることができないため、抗がん剤によってがんが大きくなるのを防いだり縮小させたりします)

胃がん検診:早期の胃がんの多くは無症状のため症状がきっかけで受診するよりも、早期発見のために胃がん検診を受けることが勧められています。
・自治体指定の医療機関や保健所にて
40歳以上:バリウム検査(X線)で異常が疑われれば内視鏡検査で胃の粘膜を観察し、さらに胃の組織をとって検査をして胃がんがあるかどうかを調べます。
50歳以上:胃がん検診で初めから内視鏡検査を受けることも可能となりました(医療機関による)。

内視鏡治療を行う条件
・がんが転移していない ・内視鏡でがんが取りやすい ことです。

内視鏡治療
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD):治療時間は通常1~2時間ほど、入院期間は1週間~10日ほど。
内視鏡治療で胃がんの部分は、きれいに切除することはできるが、胃粘膜全体が萎縮性胃炎を起こしている場合が大半なので胃がんを起こしやすい状態になっています。そのために、早期胃がんを切除してもそれ以外の部分から新たな別の早期胃がんが3~4%発生します。早期胃がんの治療をしたと同時にピロリ菌の除菌を行うと、胃がんの再発の危険性が3分の1まで低下します。早期胃がんの場合には、除菌治療は意味のある治療と考えられます。

胃がんの標準手術
・胃全摘(胃をすべて取る)+リンパ節切除・・・がんが大きい場合や胃の上にできた場合に行います。
・幽門側胃切除(胃の下側2/3以上切る)+リンパ節切除・・・がんが胃の下の部分にできた場合行われることが多い。

手術がしっかり行われれば、がんが再発する可能性は極めて少ないと考えられます。

 

治りにくい胃がんと抗がん剤
早期がんは、2つの大きなタイプに分けられます。
・分化型がん:進行が比較的緩やか。
・未分化がん:進行が速い(例として、スキルス型胃がん。胃がん全体の約1割。一般に胃がんは50歳以降に発症することが多く、スキルス型胃がんは比較的若い30代の女性に多いのが特徴です)。さらに、腹膜播種やリンパ節転移の頻度も高く外科的切除で治癒することが難しいがんとされています。しかし近年は新しい抗がん剤も開発されて、その高い治療効果が期待されています。

抗がん剤の使い方
①手術ができない場合 ・離れた場所に転移している。
・手術後に再発→がんの増殖を抑えます。
②補助的に使う場合 ・手術前がんを小さくし切除しやすくする ・手術後、再発予防のため
手術後に補助的に使う抗がん剤と手術ができずに抗がん剤中心で治療を行う場合とでは抗がん剤の組み合わせが異なります。
胃がん治療の抗がん剤の種類
・飲み薬:フッ化ピリミジン系薬剤 
・点滴:トポイソメラーゼⅠ阻害剤 プラチナ製剤 タキサン系製剤 
・分子標的薬:HER2阻害薬 血管新生阻害薬
胃がんの治療は複数ありますが現在は「個別化医療」が進んでいます。患者さんそれぞれに合った薬を選んで、組み合わせて治療を進めるようになりつつあります。
フッ化ピリミジン系薬剤、トポイソメラーゼⅠ阻害剤、プラチナ製剤、タキサン系製剤の薬は従来型の薬で、がんの細胞分裂を阻止する薬です。上記4剤の違いは細胞分裂を抑制する場所の違いです。
HER2阻害剤:がん細胞の増殖に係わるたんぱく質を狙い撃ちし、がん細胞の増殖を抑えて死滅させる薬です。胃がんの約20%がHER2と呼ばれる受容体が、がん細胞の増殖に関与していることがわかっています。その働きを抑える薬です。同じ胃がんでもHER2をたくさん持っているがん細胞と持っていないがん細胞があります。HER2阻害薬は、遺伝子検査でHER2陽性となった場合のみ使用します。
血管新生阻害薬:がんが、栄養補給のために作る血管を増やさないように止めてしまう薬。がん細胞が増殖するために必要な栄養供給が止まってしまうので栄養が断たれてがん細胞が死滅します。

 

抗がん剤治療
初回は入院のうえ副作用に適切に対応します。
2回目以降は外来で行う(外来化学療法)ことが多く、現在は点滴と内服薬を組み合わせて使用していますが、患者さんの負担を減らすため、できるだけ外来に通院する日数を減らす、あるいはできるだけ内服薬に切り替えていく方向に治療法が変わりつつあります。
抗がん剤は、基本的に治りにくいがんや、再発して手術が不可能なとき使用する場合はずっと使用することになります。

副作用 
従来の抗がん剤:白血球減少、貧血、脱毛、下痢 など。
分子標的薬 HER2阻害薬:悪寒、発熱、皮膚症状(発疹)など。
血管新生阻害薬:血栓塞栓症、高血圧、消化管出血 など。
・支持療法:予防的に薬を使用し副作用を軽減し、生活の質を改善するための治療です。 支持療法が確立されたことで患者さんの生活の質を保ちながら、がん治療ができるようになりました。
自分でできる副作用対策 
・皮膚の色素沈着:直射日光を当てない。 
・高血圧:毎朝血圧を測定し記録し、受診時に主治医に見せる。
現在がん治療は医師、看護師、薬剤師が連携したチーム医療が行われており、辛いときは我慢をせずに主治医に相談することが大切です。

胃がんはそれぞれ性質が少しずつ違った胃がん細胞から構成されているので、その特徴である分子を攻撃する新しいタイプの分子標的治療薬が開発されると予想されています。個別化治療という、胃がん患者さん、ひとり一人の胃がん細胞の特徴を調べて、その方に合った治療法を選択していく時代になっていくと考えられています。

                           東住吉区医師会理事
                              佐々木 伸一